
第9話 アシスタント
シャンプーボーイの次なるステージは、アシスタントだ。
ここでアシスタントの苦労話をするつもりはない(もちろん、苦労はたっぷりある)。
ただ、断言したいことが一つ。
アシスタントの良し悪しがスタイリストの売上を大きく左右する。
月に100万円の差が出てくるといっても過言ではない。
アシスタントは、ローテーションで数名のスタイリストについて経験を積んでいく。
これが基本だが、仕事ぶりを見て、スタイリストがアシスタントを指名することもある。
スタイリストたちは、売上をあげるアシスタントを欲しがるし、奪いあう。
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アシスタントの仕事は、スタイリストの指示を完璧にこなすことと思われがちだが、もっといってしまうと、スタイリストの「分身」になることを求められる。
技術的なことをいえば、カウンセリングとカット以外はすべてを請け負う。
カラー剤の調合や塗布、パーマの施術、仕上げにいたるまですべてだ。
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接客も重要で、スタイリストとお客さまとの間合いや空気感を読んだり、お客さまの体調やテンションを把握しながら接客をしていかなければならない。
それを無視してやっていると、お客さまが気分を悪くしてしまったり、ストレスを感じて、もう二度と来店してもらえなくなってしまうこともある。
空気を読む能力もアシスタントには必要不可欠ということだ。
人気のスタイリストは、2人から3人のお客さまをかけもちする。
メニューによってお客さまの滞在時間が長くなると、5人かけもちすることも、ざらにある。
スタイリストは忙しい。
あなたの前にずっといるわけにはいかない——悲しいが現実だ。
スタイリストがほかのお客さまのデザインチェックをしている間、待たされるお客さまをおもてなしするのもアシスタントの役割だ。
会話や雑誌のサービスなど、おもてなしも料金にはいっている。
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アシスタントには「ファッションセンス」が求められる。
これも大きなポイントだ。
お金がない?
理由にならない。
くりかえすが、アシスタントはスタイリストの分身だ。
ファッションセンスが悪ければ、スタイリストの信頼に傷をつけることになる。
僕もアシスタントのころ、厳しい助言をいただいた。
いつもどおり爽やかに朝のそうじをしていると(ピタTとハーフパンツにデッキシューズというお気に入りのスタイルだった)、当時師事していたサロン一の女性トップスタイリストがくるなり言い放った。
「カワムラさぁ、そのすね毛って、オシャレなの?」
リフレインして耳に残る一言だ。
その日以来、僕はハーフ丈のパンツをはけなくなった。
いまだに、だ。
2011年9月24日
第10話「続・アシスタント」につづく
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