
第8話 シャンプーボーイ
シャンプーボーイとは、一日中シャンプーをしている入社1年目の男女を指す。
彼ら彼女らの役割は、お察しのとおり、シャンプーである。
ほかに、掃除も彼らの分担だ。
と片付けたいところだが、僕が育ったヘアサロンは、一筋縄ではいかないのである。
入社してすぐシャンプーは完璧にできるよう、内定者は4月入社前の12月あたりからシャンプーレッスンに通ってくる。
無駄のない、合理的な仕組みだ。
4月になると、すぐカラーレッスン、ブローレッスン、パーマレッスン、ストレートレッスンなど、カリキュラムはどんどん進んでいき、さらに電話対応レッスン、カットレッスンと、目まぐるしくシャンプーボーイの1年はかけぬけていく。
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僕は、シャンプーには自信があり、こだわりもあった。
「シャンプーがヘタクソなやつは、売れる美容師にはなれない」
「シャンプーは起承転結なんだ! ストーリーのあるシャンプーをしろ」
そんな意味深な言葉を先輩から聞いたものだ。
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手を握ると血が出てきたシャンプーボーイのころ。
当時のシャンプー剤は、今みたいにオーガニック成分配合などという優れものではなかった。
新人はみな、手荒れが激しかった。
手の甲はヒビ割れ、指の第一関節なんかは切れ目のような傷が無数にできる――骨が見えそうなやつもいた。
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2011年9月17日
第9話「アシスタント」につづく
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