第2話 自狩りの坊主

 

 

 

 美容師になるずっとずっと前の自分を思い返すと、この仕事にたどり着くための、いくつかの出来事やストーリーがあった。

 偶然と必然が織りなす “運命” に、逆らい、反抗をこころみながらも、ほんろうされて生きてきた。

 

 そんなエピソードを紹介しよう。 

 

 

 「太っちょキャッチャー」というやつがあるだろう。アニメの中だけでなく、彼は実在する。現に小学生だった僕は、その名の通りのキャラクターだった。

 

 当時は「ヘアスタイル」という表現もおかしいくらいに、「きょうは、坊っちゃん刈り? それともスポーツ刈り?」と、なんとも選択肢の少ないカウンセリングもそこそこに、容赦なく刈り込まれていたものだ。

 

 長さの希望やボリューム感などの「デザイン性」を問われることもなく、二択のうち、ジャッジメントを下したほうの「刈り」にされる。それを見届けることしかできない。

 

 サイドは直立する壁のように刈り上げられ、前髪は扇のように立ち上がっている。さらに富士額の毛をひとつまみだけ下に垂らすという意味不明のセットをされ、「はい、できあがり」と強制終了だ。頭の中が「?」マークのまま、家に帰るといつも、「気に入らない」とハサミでそのチョビ毛を切り落としていたものだ。

 

 そのころ全盛だったチェッカーズの藤井フミヤ風にしてくれていたことに気づくのは、しばらくたってからのことだ。駅前にある理容店で、指名もしていないのに、僕の見てくれだけで専属してくれた店一番の「太っちょ理容師」の仕事、というか仕業だ。

 

 さて、中学時代も「太っちょキャチャー」の座をほしいままに活躍していた僕は、県内でもトップクラスの名門野球部に所属し、不動の正捕手として座っていた。

 

 ヘアスタイルは、ご想像どおり「自刈りの坊主」だ。バリカンはつねに3ミリに設定されていた。

 

 野球の実力もメキメキ上達し、高気圧のような勢いのまま高校野球の舞台に乗り込み、甲子園をめざそうと意気込んでいた自信満々の太っちょキャッチャーに、「人生最大のターニングポイント」となる大事件がせまっていることなど知るよしもなかった。

 

2011年8月5日 

第3回「ターニングポイント」につづく

 

※次回から、毎週土曜日の連載になります。

写真:宥海(Junior Suite)
写真:宥海(Junior Suite)

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