第12話 続モデルハント

 

 


 モデルハントは、とても恥をかくし、傷つく。

 

 断わられることを覚悟で声をかけるが、「あ、結構です」とバッサリ断わられたり、目も合わせてくれず、手だけでシッシッと追い払われたり、ずっと無視され続けたりすると、さすがにかなりへこむ。

 

 さらに、追い討ちをかけるように、道行く人がふりかえり、笑ったり、冷めた目でにらまれるように感じはじめる。その精神的ダメージたるやハンパではない。

 当たってくだけろの心でのぞむことになるが、だれかれかまわず声をかけるわけではない。

 とくに僕が勤務するヘアサロンでは、とびきりカワイイ子じゃないと声をかけない。

 ある統計によると、渋谷Q-FRONTの前は、1時間に1万人ぐらいの人が通るそうで、その場所で半日モデルハント(略してモデハン)に精をだしても、とびきりカワイイ子はせいぜい2〜3人というところ。

 ようやく見つけ出して、話をすることができても、他社サロンの専属モデルだったり、他の美容師の彼女であったり、がっかりすることも少なくない。

 しかし、そんなことでショックを受けている場合ではない。カットモデルの手持ちがないなんてことは、あってはならないのだ。

 再び気持ちをリセットして、声をかけにいく。こうして美容師は打たれ強くなっていく。

 


 余談だが、男の美容師がモデハンをしていると「好きな子に告白する」ような気分になることがある。

 くりかえすが、モデハンも立派な仕事だ。ただし、「トキメキ♡」をともなう楽しい仕事だといえるだろう。

 美容師になれば、自分のタイプの女の子に声をかけるという行為を町なかで堂々とできるのだ。

 モデハンは、断じてナンパではないが、そう見えることもあるだろう。「うらやましいな~、俺もモデハンしたいよ」と他業界の男たちに言われると、優越感に似た、変な気持ちになる。

 モデルが何回かサロンに通っているうちに、美容師と恋に落ちてしまい、「カップル成立」なんてことは、日本中のサロンで起こっているに違いない。

 美容業界のタブーのひとつだ。


 モデハンでつかまえた女の子たちを、ポラロイドカメラで撮り、モデル帳に記入する。女の子の名前や電話番号、メールアドレスなんかが増えていくと、楽しくなってくる。

 あみ、あゆ、あやこ、ありさ——このへんはコレクターと同じ心理かもしれない。

 携帯電話の履歴は、何十人ものモデルたちとのやりとりで一杯だ。せっぱつまると、深夜1時だろうとかまわず、モデルにメールや電話をしてしまうことがある。

 あなたが女性なら、ちょっと想像してみてほしい——彼氏がきれいな女の子たちと夜な夜なメールをやりとりしていたら、と。

 デート中も彼氏の眼がキョロキョロと女の子を探していたとしたら——あなたは、それも彼の仕事と割り切ることができるだろうか。

 美容師同士のカップルが多いのも納得だ。

 

2011年10月15日

第13話「レセプショニスト」につづく

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