第10話 続・アシスタント

 

 

 

 アシスタントは営業後になにをしているのか、どんな暮らしがあって、どんな苦悩と楽しみがあるのか。

 

 ひとことで言うと、アシスタントの生活は、過酷で刺激的だ。

 

 

 美容師のアシスタントが貧乏なことは、よく知られた話かもしれない。

 

 まず家賃がある。

 

 アシスタントは、寝ても覚めても、美容のことだけを考えて生活する(はずだ)。

 朝はまっさきに出社して、夜は20時の閉店からレッスンがはじまる。

 

 22時をすぎレッスンも終えて、さあ、おつかれさまでした——と帰宅するわけではない。

 

 モデルハントという重要な日課がアシスタントを待ちうける。
 渋谷の繁華街にくりだし、終電まで “狩り” をすることになる。


 レッスンモデルの手持ちがないときは、クラブに潜入してまでハントを続ける。

 週2回のレッスンで、モデルがいないなんて、死んでも言えないし、あり得ないことだった。
 アシスタントたちはとてつもないプレッシャーのもと、まさに死にものぐるい、血眼になってハントにいそしむ。

 

 

 私鉄の始発駅に住んで、朝の通勤も座ってらくちん——なんて生活は、少なくともアシスタント時代にはありえない。

 

 人気サロンは青山や原宿、代官山などに店を構えることが多い。

 アシスタントたちはその近くに住むことを余儀なくされるわけだ。

 終電が終わっても練習に没頭してしまい、帰りはタクシー、そんなぜいたくなんてできるわけない。

 歩くか、自転車か、バイク(実は禁止だ)で帰宅する。

 サロンが代官山にあるならば、学芸大学や三軒茶屋あたりに住むことになるだろう。

 どちらの街も人気があり、安いアパートなどそうそうないので、家賃を払うのも必死である。

 

 

 それだけではない。

 アシスタントは、おしゃれもしなくてはならない。

 

 古着をうまく取りいれる者もいれば、ハイブランドの洋服でかためてクレジットカードの地獄におちいる者もいる。
 先輩のおさがりをもらって切り抜ける——そんな裏技を使えるアシスタントは幸いだ。

 

 

 さらに、避けて通れないのが教材費だ。

 アシスタントが元気にがんばればがんばるほど、教材費がアシスタントの財布を苦しめる。

 

 アシスタントは、「ウィッグ」と呼ばれる専用のかつらを教材に用いる。

 

 このウィッグは、人毛100%——中国南方のなんとか族の髪の毛でできている。

 髪の毛を集め、脱色し、黒く染色したうえで、かつらに植え込んだしろものだ。

 

 1体2000円もする「それ」を、毎週5つ発注するとして、ひと月に20体ほどを使い切るとしよう。

 毎月の出費は——、簡単なかけ算をしてみてほしい。

 

 

 アシスタントたちは、同期の仲間とわいわいやっているうちに、つらいことも乗り越えていく。

 

 僕の同期にも、色々なやつがいた。

 

 カットの練習そっちのけで、スケボーで滑ることに明け暮れるやつ。

 クラブに通い、DJも玄人はだしで、美容よりもむしろ音楽を愛しちゃってるやつ。

 酒が好きで飲み歩くやつ。

 合コンの大物幹事もいた。

 

 彼らは、趣味先行型といえるだろう。

 

 僕は、いわゆる「美容バカ」タイプで、週2回の全体レッスン以外にも、毎日の練習に余念がなかった(趣味の写真やDJ、スケボーなどは、スタイリストになってから本格的にはまったものだ)。

 営業時間を終えても、読者モデルや、のちのち輝くであろう原石みたいなかわいい女の子たちをどれだけ多くハントするかということばかり考えていた。

 

2011年10月1日

第11話「モデルハント」につづく

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