第1話 ヘアサロン業界の華麗なる劣等生

写真:宥海(Junior Suite)
写真:宥海(Junior Suite)

 

 

 

 僕の職業は美容師だ。美容の名門学校を卒業して、美容師免許を取得、二十歳で日本有数のトップサロンに入社した。12年もの間、変わらず代官山店に勤務してきた。

 

 シャンプーボーイからはじめて、“プライベートトップスタイリスト” という特別な立場を確立するまで、やってきた道のりは、平坦なものではなかった。

 

 どんな職場でも会社組織ならば、新人にとって先輩や上司、同僚という存在がある。僕が最初に、ぶちあたった壁はそんな人間関係のなかにあった。

 

 一言でいうと、劣等感。それは技術の優劣だけの問題ではなかった。

 

 当時の僕は、先輩のいうことに一切耳をかたむけず変な過信のもと、がむしゃらだった。努力は惜しまず、練習やそのためのモデルハントには人一倍の時間を費やした。が、基本的な技術はすべてパワープレイ。恐ろしい。

 

 一人前の技術者になるには、資格取得だけではだめ。上司である先輩がたに練習を見てもらい習得していく。そしていくつかの段階をへて合格をもらうまで一人前にはなれないのだ。それをすべて無視していた僕は、同期の昇格を尻目にどんどん取り残されていった。

 

 周囲からの教えや技術を吸収しようとしない、まるで “岩の塊” のような心を持つ人間に成長はなかった。

 

 2011年7月29日

第2回「自狩りの坊主」につづく 

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